2009年11月30日

『海をゆく者−The Seafarer』PARCO劇場

先に謝っておく。微妙にネタバレです、すみません。

キャスト(小日向文世、吉田鋼太郎、浅野和之、大谷亮介、平田満)だけ見て、観に行くことにした。コナー・マクファーソンはアイルランドの若手劇作家。アイルランドの現代劇は、重くて暗くて、登場人物は皆騒々しくイライラを抱えててキレやすい(この、登場人物の騒々しさ・キレやすさが、日本人が(?)アイルランドの芝居を苦手に思う原因だと思う)。今回も1幕目でくどいほどアル中のダメ男達の騒ぎを見せられて、まーた絶望的にどんよりした結末になるのかなーと思っていたら、あ、こういう話だったのか!と驚いて、嬉しくなった。突然差し出される救済。知らなかった人の気持ちに触れる。どんなにダメになっていっても変わらないものに気づく。暗くて臭くて埃っぽい地下の部屋にも、クリスマスの朝の陽光が差し込む。

とにかく役者が素晴らしかった。
吉田鋼太郎、失明した陽気な乱暴者の兄リチャード。鬱陶しいほど騒々しくコミカルかと思えば、急に朗々たる美声で威厳を発揮し、気弱で家族を思う一面も見せる。ものすごい台詞数のマシンガントーク。実は一座でいちばん若い(笑)。
平田満、弟シャーキー。禁酒して、淡々と兄や悪友の面倒を見るが、内面には暴風を抱え込んでいる。クリスマスの朝の光に、呆然とする幕切れ。カードには何が書かれていたのか。
浅野和之、お人好しで恐妻家のアイヴァン。ヒョロヒョロフラフラチクタクした飲んだくれが、カードになった途端に目が据わるのが可笑しい。幸運は思いもかけぬところからもたらされる。メガネ、メガネ。
大谷亮介、シャーキーの元妻の現恋人ニック。いちばん普通の人が、何の悪気もなく不運を連れてくることもある。
小日向文世、謎の紳士ロックハート。声が!動きが!自分のものでない身体を操る奇妙さが伝わる。カード場面の不気味な緊迫感。最後には、一人だけ祝福を得られないロックハートがかわいそうにもなる。

美術や照明も練り込まれてて素敵。薄汚れた地下の居間に階段上から差し込む光、天窓からぼんやり見える地上、額縁のキリスト像に捧げられたランプ、もうもうと煙を上げるロウソク、天辺の星が外れたままのクリスマスツリー、古びた家具、たくさんの椅子、アイリッシュビアのプレート、ランプシェードにぶらさがる鎖で巻かれたハートの飾り。
ワンアイデアのブラックファンタジーを、ここまで贅沢にさりげなく作り込んであるというのが驚きだった。

タイトルの元になっているのは、イギリスの古詩 "The Seafarer"。冬の航海の苦労と孤独。と同時に、海への憧れと、天上へ至るための旅であることが語られている。多分。
posted by kul at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇/舞台 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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