2007年10月26日

10月歌舞伎座夜

千穐楽。夜の部、まずは「怪談牡丹燈籠」の通し狂言。今回は歌舞伎用の河竹新七本ではなく、文学座のために書かれた大西信行の脚本。現代的というか、心理描写に重点をおいている点で落語に近いのかな。怪談として有名な新三郎(愛之助)とお露(七之助)の物語よりも、伴蔵(仁左衛門)とお峰(玉三郎)の因果応報譚がメインとなります。因果応報とはいうものの、お露さんの乳母のお米(吉之丞)に見込まれたばっかりに悲劇に巻き込まれて、気の毒な夫婦だ。お家乗っ取りを企んだ源次郎(錦之助)・お国(吉弥)は自業自得だけども。
大川の船上の場で始まって、場面のつなぎに円朝(三津五郎)が登場し、今、高座でこの物語を語っているという趣向。歌舞伎の「千秋楽」は、芝居小屋は「火」を嫌うので「千穐楽」と書く、という話を枕に、新三郎にお露の訃報が届くところまで語って、再び幕が上がると新三郎の家。からーんころーんと駒下駄の音を響かせてお露とお米が訪ねてくる。幽霊に生者用の光を当てない照明が上手い。
で、骸骨のお露さんを見てしまった伴蔵が長屋へ戻ってきて、お峰とやり取りになるのだが、玉三郎のガラが悪くてしたたかなおばちゃん(という年でもないのだろうが)振りが可笑しいやらかわいいやら、吃驚した。最初に仁左・玉で牡丹燈籠と聞いたときに、てっきり玉さんがお露さんかと思ったもので、ギャップがものすごくて(笑)。仁左衛門の伴蔵も当然のごとくかわいくて、お札はがしに至るくだりがドタバタと息が合って面白く、さすがベストカップル(?)だなあと思う。
二幕は一年後の栗橋に場面が移り、伴蔵・お峰は大店関口屋の主人とお内儀となっている。お峰が久蔵(三津五郎)から伴蔵とお国の仲を聞きだすところ、巧みに話を向けて聞いてる間にどんどん腹が立ち、ぷちんと切れて「悔しいねえ」の台詞に行くまでの流れが見事。夜更けに伴蔵の帰りを待って、筋道立ててジワジワと締め上げていくのに、最後は感情が先に立って悔しい悲しい寂しいで何が何だかわからなくなっちゃう感じ。玉三郎が本当に上手い! 対する伴蔵も、女房に頭が上がらずに甘えてごまかしてしまおうとする様子が実にリアル。ただの夫婦喧嘩がこんなに面白いなんて。そうして、面白いうちにも、お峰の寄る辺のない心細い心情と、伴蔵に殺意が芽生えたことを感じさせる。関口屋夜更けの場が白眉でした。
そして翌日、大詰めは幸手堤の殺しの場。久しぶりに夫婦で出かけ、うきうきと帰るお峰。ふっとした中に、明らかな殺意が見える伴蔵。怖いよう。匕首と傘との立ち回りだけが歌舞伎らしい演出。殺してしまってからふらふらと死骸を抱いて「お峰ッ」と叫ぶ伴蔵…。伴蔵もお峰も根っからの悪人でなく、一時の欲に迷った末に悲劇に至るのが哀れ。

締めは三津五郎の「奴道成寺」。三津五郎の踊りは、日本舞踊の形がぴしッぴしッと決まっていくのが美しく心地よい。舞踊はよくわからないが、振り付けがただの動きで終わっていない踊りはわかる気がする。鐘に上ってぱっと華やかにぶっかえって幕。
posted by kul at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇/舞台 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/63106605
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック